米中貿易摩擦をどう乗り切るかー コラムまとめ

米中貿易摩擦

出典[ニューヨーク 27日 ロイター]

– 米中通商協議が行われては中断するという流れが続く中で、株式市場では従来の「定石」が通用しにくくなり、投資家が不確実性が高まった局面で利益確定に走るため、ボラティリティーが増大しつつある。

トランプ米大統領が通商協議の再開方針を表明した26日には世界的に株価が上昇したが、翌27日に中国外務省が米国側からこの問題で何の連絡も受けていないと述べると、株安に転じた。

投資家は今、米政府が3000億ドルの中国製品を対象にした追加関税第4弾の一部を発動する9月1日に注目している。

中国も同じ日に米国の大豆や自動車部品、小型飛行機などへの報復関税を課す構えだ。

こうした貿易摩擦がもたらす荒波を乗り切るためのいくつかの投資戦略を以下に紹介する。

(1)フェデレーテッド・インベスターズのポートフォリオマネジャー兼チーフ株式ストラテジスト、フィル・オーランド氏

オーランド氏は、通商協議が長期化するのを見越して7月に株式のオーバーウエート比率を8%から3%に引き下げた。

その上で「トランプ氏はある程度まで、対中通商問題を米連邦準備理事会(FRB)からの追加利下げを引き出す手段として利用しているが、将来のどこかの時点で中国と腰を落ち着けて交渉し、合意を実現できる」と指摘。

それが実現すれば、中国の関税の主な標的となっている自動車部品や農業といったセクターのオーバーウエートに動く考えだ。

(2)クレセット・キャピタル・マネジメントのジャック・アブリン最高投資責任者

アブリン氏は今年に入って、クレセット・キャピタルがリスク量を減らしたと話していた。「われわれはリスクを少なくしたポジションにかなり満足している。株式市場が何らかの形でメルトアップ(高騰)するというリスクがあるのは明らかだが、バリュエーションや利回り、各種期待の水準を考えれば、メルトアップの確率は小さいように見受けられる」という。

(3)UBSのマーク・ヘフェル・グローバル最高投資責任者

ヘフェル氏は今週の調査ノートに「世界経済と金融市場の下振れリスクが高まりつつある。その結果、われわれは株式のアンダーウエートと政治的な不確実性へのエクスポージャー縮小によって、リスク量を減らしている」と記した。

(4)JPモルガンのストラテジストチーム

同チームは直近に打ち出された関税は実行されない可能性があるとみており、リスク志向に戻る時期が近づいていると指摘。

「8月中は株が値固めすると訴えてきたが、調整期間は5月より長引かないとの予想は変わらない。また当初の想定通り、年末にかけての株価上昇が9月から始まると引き続きみている」と説明した。

(5)JPモルガンのデリバティブ・ストラテジストチーム

同チームは、貿易摩擦が一段と悪化する場合と、状況が改善する場合のどちらかで必ずもうかる方法として、株式オプションの活用を提案。

ストラテジストのブラム・カプラン氏は27日付ノートで「現在の弱気のポジションと市場心理は、通商協議に明るさが出ればすぐに変化し、株価を大きく押し上げてもおかしくない」と述べた。

カプラン氏が株価反発への備えとして推奨するのは、S&P総合500種のオプション購入だ。同様に貿易摩擦激化で最も打撃を受けている銘柄や上場投資信託(ETF)のコールオプションも買うべきだとしている。

これまでの関税にはほぼ「無傷」だったが、12月発動分に脆弱とみられる企業については、ストラテジストチームは12月を期限とするプットオプションの購入を勧める。

こうした企業には、ナイキ(NKE.N)やエスティーローダー(EL.N)、イリノイ・トゥール・ワークス(ITW.N)などが当てはまるという。

トランプ大統領

米金融政策、大統領の貿易戦争に歯止めを

出典《Bloomberg 2019年8月28日》

トランプ米大統領が中国に仕掛けた貿易戦争は、企業と消費者の信頼感を損ない続け、景気見通しを悪化させている。

現在進行中の人災は米金融政策当局にジレンマを与えた。景気刺激措置を講じることによって被害を抑制するべきか、あるいはこのやり方に同調することを拒否するべきか。

健全な経済を究極的に目指すのであれば、米当局は後者のアプローチを真剣に考えるべきだ。

米金融政策当局は通常、管轄外で起きた事象には関与せず、物価の安定と最大限の雇用という責務追求のために必要な調整を行う。

金融政策上の行動が他の分野、例えば政府支出や貿易政策などの決定にどう影響するのかについては、ほとんど重視しないものだ。例えば、財政投入による刺激措置を議会に促す目的で利下げを控えたりはしない。

このように米金融政策当局は政治から距離を置くことによって、独立性を維持しやすくなっている。

従って、一般的な通念としては、トランプ氏の対中貿易戦争が米経済の見通しを悪化させれば、米当局はそれに応じて金融政策を調整するべきだ。

この場合は利下げということになる。しかしながら、米当局の金融緩和が貿易戦争をさらにエスカレートさせ、リセッション(景気後退)のリスクを高める方向に大統領を促すのなら、話は違ってくる。

その場合、打撃を和らげようとする当局の努力は無駄になるだけでなく、事態を悪化させる可能性さえある。

ウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長はこの問題を認識しているように思われる。ジャクソンホールで先週開かれた年次シンポジウムで、金融政策は「貿易の完結したルールブックを提供」できないと指摘した。

これは貿易戦争を暗に指しており、米金融政策当局の手段はそうしたダメージ緩和に適していないことを警告したものと考えられる。

とはいえ、米金融政策当局にはさらに行動する余地がたっぷりある。

貿易政策について選択を誤り続ける政府を救済する考えはないと、当局者が明確に述べることもあり得るだろう。つまりトランプ氏がとった行動の結果は、同氏の責任だと極めて明確にすることだ。

米当局者らが政治に関与しない姿勢を続けたいのは理解できるし、支持する。

しかしトランプ氏がパウエル議長と米当局を攻撃し続けることで、その姿勢では持たなくなった。

中央銀行の当局者には選択肢がある。トランプ政権がこのまま、貿易戦争のエスカレートという破滅的な道を歩むのを容認するのか、あるいはその場合に選挙敗北を含めたリスクを負うのは米金融当局ではなく、大統領自身だという、明確なシグナルを発信するかだ。

選挙そのものが米金融政策当局の管轄に入るとの主張さえ聞かれる。

詰まるところ、トランプ氏の再選は米国と世界の経済、さらには米金融当局の独立性および雇用・インフレの責務達成能力への脅威となり得ることは否めない。

金融政策の目標が可能な限り最良の長期経済であるならば、当局者らは自分らの決定が2020年の政治的結果にどう影響するかを考えるべきだ。

世界経済の行方が「トランプ次第」となったワケ

出典《PRESIDENT Online2019/08/23》

いま世界経済はバブル崩壊の崖っぷちにある。

そうした状況を招いたのは、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の失策だ。

このためトランプ米大統領は、パウエル氏に政策転換を強く求めている。

大和総研の小林俊介シニアエコノミストは「世界中の金融関係者が固唾を飲んで、8月23日のパウエル氏の講演に注目している。踏み込んだ利下げが早急に行われなければ、世界的な景気後退に直面するリスクが顕在化する」という——。

2019年に入って、トランプ米大統領がパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長に対する「口撃」を強めている。

米国ではこのように大統領が金融政策に注文をつけることは異例だ。

また、その注文内容を単純化してしまえば「積極的に金融緩和を行って景気を刺激しろ、株価をつり上げろ」ということであるから、お世辞にも行儀のいいものではない。

また、トランプ氏のパブリックイメージも決していいとは言えない。

このため、「金融政策に対する理解と敬意に欠ける政治家が、来年に控えた大統領選挙と議会選挙をにらんで即物的な政策を要求し、中央銀行の独立性を侵害している」といった見方は根強い。

パウエル議長を「被害者」と見なし、同情的な視線を送る人たちは相当多いようだ。

しかし、そうした見方は早計だ。2018年2月の就任以来、たった1年半の間で、パウエル議長はあまりにも多くの失敗を繰り返してきたからだ。

具体的に言えば、

①政策ルールの放棄、②過度な利上げ、③市場との対話不全、④金融緩和の初動ミスと、

その結果としての逆イールド出現などが該当する。

これらの失敗により繰り返された金融市場の混乱が、2018年11月の中間選挙に及ぼした影響は無視できない。

同様の事態が再発した場合、2020年11月の大統領選挙と議会選挙においても、トランプ政権にとって望ましくない効果をもたらす可能性が高いだろう。

過去において、世界的な景気拡大・株高が終わり、バブル崩壊・景気後退に入る直前には、必ずと言ってよいほど「長短金利の逆転現象」が米国で確認されてきた。

もっとも、この発見は何も目新しいものではない。

卵と鶏の議論となってしまうが、そもそも長短金利差の逆転は、債券市場から見た場合、将来の景気減速(後退)を意味する。

また、銀行をはじめとする金融機関から見た場合、長短金利が逆転するということは、貸出を増やせば増やすほど損をすることを意味する。

銀行などの金融機関は期間の短い預金という形で資金を調達し、期間の長い貸出や債券(国債など)に投資して利益を得ている。

通常状態では長期金利(債券・貸出)>短期金利(預金)となっているので利益が出るが、長期金利(債券・貸出)<短期金利(預金)=長短逆転すると運用利回りがマイナスになるため損失が出る。

結果として貸し渋り・貸し剥がしが発生し、自己実現的に景気後退の局面に突入することになる。
米国の潜在成長率が1%台後半であること、そして米国のインフレ率に当面加速の兆しが見られないことを踏まえれば、2%台中盤という現在の長期金利はおおむね妥当な水準にあるように見える。

他方、新FRB議長であるパウエル氏がイエレン氏と同様に、金融市場の過熱を抑制することを主眼として金融政策を行うとすれば、政策金利であるFF金利(短期金利)は継続して淡々と引き上げられる公算が大きい。

まさに恐れていた事態が発生してしまった。

そして景気後退を回避するための直接的な解決策は、大幅な利下げ(短期金利)により「逆イールド」を解消することだ。

この文脈において、正しいのはトランプ大統領であり、誤っているのは利下げに消極的なパウエル議長である。

今後の米国および世界の金融市場と経済の行方は、「トランプ大統領がどの程度強く、そして早く、パウエル議長を屈服させることができるか」にかかっていると言っても過言ではない。

もちろん、トランプ大統領にも非はある。

とりわけ罪深いのは、イエレン前FRB議長を解任し、パウエル氏を後釜に指名したことだ。

この点まで考慮に入れるとトランプ大統領に情状酌量の余地は存在しないし、どれだけ口汚くパウエル議長をののしったところで、悲しいかな、その言葉はブーメランのように大統領自身に突き刺さるのである。