日銀総裁、世界経済・市場変動の影響注視、物価勢い「途切れさせず」

[ワシントン/東京 22日 ロイター] – 黒田東彦日銀総裁は22日、米ワシントンで行われたIMF(国際通貨基金)主催のイベントで講演し、最近の世界経済を巡る不確実性の高まりや、国際金融市場の神経質な動きが、日本の経済・物価に与える影響を十分に注視していく必要があると語った。

総裁は日本経済の現状について、日銀による「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策の下で「経済は大きく改善している」とし、「物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなっている」との認識を示した。

もっとも、足元の消費者物価の前年比上昇率はゼロ%台後半と目標の2%には遠く、「引き続き、2%に向けた物価のモメンタムを途切れさせないよう、しっかりと強力な金融緩和を続けていく」との方針をあらためて表明した。

その上で「特に、このところ、世界経済を巡る不確実性が高まっており、国際金融市場でも、やや神経質な動きがみられている」と言及し、こうした環境変化が「日本の経済・物価に及ぼす影響については、十分注視していく必要がある」と強調。

今後とも「様々なリスク要因を注意深く確認しつつ、政策効果のベネフィットとコストの比較衡量も行いながら、適切な政策運営を行っていく方針」と表明した。

講演では、多くの先進国で低インフレ・低金利環境が続く中、早くからこの問題に直面した日銀の対応などを説明した。

具体的には、2013年の「量的・質的金融緩和」政策の導入以降の取り組みについて、1)フォワードガイダンスによる期待への働き掛け、2)持続性の高い政策手段の確保、3)低金利環境の長期化が金融機能に及ぼす影響の点検──などを指摘。

このうちフォワードガイダンスについて、人々の期待への働き掛けに「特に低金利環境の下では、重要な役割を果たす」とし、その有用性はサーベイ調査でも示されていると語った。

また、現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策と市場機能の維持・改善を「両立させる取り組みを不断に行っていくことにより、長期にわたって緩和的な環境を実現していくことが可能であると確信している」と強調。

一方、長期・超長期金利の過度な低下は、保険や年金の運用利回りの低下などによって「広い意味での金融機能の持続性に対する不安感がもたらされる可能性があることには留意する必要がある」とし、低金利長期化の影響として現時点で留意すべきは、金融活動の過熱よりも「金融機関収益を介した経路だ」と語った。

質疑応答では、YCC政策について、他の国々でも物価の低迷や低金利が長期化すれば採用され得ると指摘。日本の経験は状況に応じて海外でも生かすことが可能とした。

YCC政策とは?

イールドカーブコントロール(YCC)

日本銀行が2016年9月に導入した「長短金利操作付き・量的質的金融緩和」の枠組みの一つ。

政策金利の誘導目標に加え、長期金利の誘導水準(2018年12月現在、10年国債利回りを概ねゼロ%程度に設定)を定め、その水準になるよう国債買入れを実施すること。

日銀、金融政策維持へ 米中摩擦のリスクなど点検

[東京 17日 ロイター] – 日銀は19、20日の金融政策決定会合で、現行の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和政策の維持を決める見通し。5月に入って情勢が急変している米中貿易摩擦や、それに対する市場の反応などが経済に与える影響について議論を深めることになる。

米国が中国の対米輸出2000億ドル相当の関税引き上げを実施し、中国も米国の対中輸出600億ドルの関税引き上げを行うなど、5月に入り米中間の貿易摩擦が激化している。

5月景気ウオッチャー調査で景気の現状判断DIが2カ月ぶりに悪化し、センチメントを示すソフトデータの一部には米中貿易摩擦悪化の影響が出始めている。

一方、中国向け輸出や生産、設備投資などのハードデータはまだ出ていない。政策委員会の内部では、5月以降の状況を踏まえた経済指標や6月日銀短観を見極めたいとの声が多く、現時点では日銀が描く「年後半回復」のシナリオは維持される見通し。

今月8、9日に福岡で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では「貿易と地政を巡る緊張は増大してきた」との懸念を示しながらも、世界経済について「足元で安定化の兆しを示しており、総じて今年後半、2020年に向けて緩やかに上向く見通し」との認識を共有した。

物価面も大きな変化はない。4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比0.9%上昇し、前月の0.8%上昇からプラス幅が拡大した。米中貿易摩擦を受けた商品市況の下落や、中東情勢を受けた原油価格の変動など不透明要因は多いものの、現時点で「物価2%に向けたモメンタム」は維持されているとみている。

こうした経済・物価情勢を背景に、日銀では、現行の強力な金融緩和政策を粘り強く続ける姿勢を確認する見通し。

世界的な長期金利の低下もあり、10年最長期国債利回りは一時マイナス0.135%まで低下した。日銀内では、プラス・マイナス0.2%程度とするレンジ内での動きであり、金融調節上は問題ないとの立場だ。

また、海外経済の先行き不確実性が高く金融システムの耐性が維持されている現状では、長期金利が一時的にマイナス0.2%を下回ったとしても障害にはならないとの声が出ている。

ただ、長期金利に象徴されるように、米国・欧州ともに市場では金融緩和を織り込む動きが顕在化してきた。

米国では、4日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が「景気拡大を持続させるために、適切に行動する」と述べ、市場の利下げ観測が高まった。

米国が利下げに踏み切る際には、日米金利差縮小から円高が進むとの観測が市場では根強くあり、6月18─19日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)の動向にも注目している。